修論を書き終えて 石塚千夏

2023年06月26日

 こんにちは、2023年に広島大学大学院 人間社会科学研究科 教育科学専攻 国際教育開発プログラムを卒業した石塚千夏です。なぜこの大学院とゼミを選んだのか、どのように私が修士論文を書き上げたか、何が大変だったか、何を得たのかなどを簡単にまとめられたらと思います。

 本題に入る前に簡単に私の経歴を説明しますと、学部は山梨県立大学の国際政策学部を卒業しまして、そのまま2021年の4月に広島大学大学院に入学しました。学部と修士が異なる大学となっていますので、他大学から院進を考えている方の参考になれば幸いです。

 

 私は中学生の頃から国際協力に関心があり、大学で国際協力について何か学びたいと高校生の頃から考えていました。ですが、残念なことに英語の出来が悪く、第一志望ではない大学へと行きました。そこで、ある先生に会い、教育学の面白さと重要性を学びました。学部3年の時にこのまま社会人になるのではなく、もっと国際協力のフィールドで教育について学びたいと考えるようになり、そのことを先生に相談したところ、日下部先生を教えてもらいました。その後、他の大学院の先生にもお話を聞きながら、日下部先生のところであれば、途上国でのフィールドワークを行いながら自分の学びたいことが学べると感じ、進学することを決めました。

 私は「同等性教育が及ぼす人々へのエンパワーメント―効果と自尊心の関係に関するカンボジアの事例研究―」という題名で修士論文を書きました。フィールドは私自身が行ったことがあり、虐殺や内戦を近年に経験しており、現在ようやく教育開発の分野が発展しているカンボジアとしました。同等性教育(Equivalency Program)とは義務教育を中途退学してしまった子どもや若者に対して、学校外で教育を受けられる機会を提供し、プログラムを修了すると公教育卒業同等の資格を与えるプログラムです。私は、その同等性教育が持つ、政府さえもが意図していない効果として、自尊心など精神面での教育的影響とそれが生徒の将来観や進路に影響を及ぼしているのか、などを明らかにしようと試みました。そのため、2022年の4月からNGOでインターンを行い、22年の7月から10月までインターン生としてカンボジアへ行きました。そこでは、予想外のこともたくさんあり、戸惑うこともありましたが、貧困な中で現実に立ち向かいながら生きている生徒や、生徒の将来を本気で考えている熱心な先生方などに会い、直接自分で行って、自分の目や耳で見て聞いて知った情報の重要性を強く感じました。コロナ禍が落ち着いたころでしたので、幸運でした。渡航前にある程度の情報を得てから行ったつもりではありましたが、それでも知らないことや文献の情報と異なる現実が数多く存在し、それらを掬い取り、修論として整理し、書き上げることは難しいことではありましたが、やりがいがあり楽しい時間でもありました。

 10月に日本に帰ってきてから、まず実施したインタビューの書き起こしを始めました。現地の通訳を通してクメール語から英語にしてもらっていたため、英語の部分のみを書き起こしました。正直、修論を書き上げる時にこの書き起こしを作るのが一番大変でした。60人の生徒と15人の先生のインタビューを書き起こしたのですが、これだけで1か月半ほどかかりました。その後は、生徒一人ひとりがなんと回答していたか中身を整理し、精神面の変化を分類して整理しました。そこから何がいえるのか、どのような変化がどのような背景を持つ生徒に起きているのかを考察しました。

 この修論は、今現在の私の最大限で、一切妥協をせず書ききれたとは思っています。それでもまだまだ穴が多く、数年後見返したらきっと拙すぎて恥ずかしいのだろうとは思います。ですが、このような満足のいく修論を書きあげられたのはこの日下部ゼミだったからだろうと思っています。ゼミでは半期に1度自分の修論の進捗発表をし、修士だけでなく博士の先輩方からも質問やアドバイスを受けます。発表は15~20分ほどなのですが、質疑応答は長い時では1時間近くになることもあり、自身の修論の修正点が明確になります。自分で書いてるだけでは気づけなかった矛盾や問題点が沢山出てくるので、次に何をすればよいのかの指針になります。何か答えがあるわけではない、「研究」の世界では、ゼミや研究室における議論で、どう進んでいけばよいのかを学んだと思います。

 また、ゼミの時間以外にも自分の中で分からないことや相談したいことが出てきたら、先生が非常に懇切丁寧に相談に乗ってくださいました。なので、不安をそのままにしたまま書き進める必要が無く、こまめに軌道修正を行うことが出来ました。それに、先生だけでなく、同期や先輩にも研究の相談がしやすい空気なので、時には緩く、時には真面目にお互いの研究について議論し合うことができ、独りで研究をしているという感覚を持ったことはなかったです。他の研究室の子の話を聞いているとあまり日下部ゼミのようなところは少ないのだなと感じることもあります。

 また、先生は、実は私が質問票をすべて埋められていなかった穴あきの回答票をみて、注意されるのかと思いきや、「手を抜かず、泥くさくやったことがこの穴あきの回答票から一発でわかる」と評価してくださいました。フィールドでは、「きれいな」データが得られるとは限らず、集められたデータから、わかった部分をつなぎ合わせて仮説生成することが求められます。一生懸命やっていたらそれができるとわかったこと、これは大きな成果でした。

 卒業してからは、日系の経営コンサルティング会社で働いています。しばらくは日本企業の支援に尽力していく予定ですが、いつか日本企業の海外進出の支援などを通して、カンボジアを始め、様々な途上国の経済発展を支えていけたらいいなと思っています。そうすることで、目の前にいる人だけでなく、その国にいるもっと多くの人の生活水準を上げ、教育を受けられる人を増やせるのでは、とフィールドワークを通して思うようになりました。

 修士の2年間はもう、ここでは書ききれないほど、フィールドワークでは多くのことを知り、感じ、考えました。そこでの悩みや考えについて、修論を書きながら少しずつ整理し、昇華させていった経験はこれから先の私の人生を支えてくれると思っています。このゼミでの2年間は私の宝物です。

 お読みいただきありがとうございました。